あしたのきみに

2018.5生まれの高度難聴疑惑女子「桃」のこと。

ABR検査の日 後編

ね、寝ない!?

準備を終えて聴力検査室に入った。

細長いベッドに、PCが2台。他、機械がいろいろ。

薄暗い部屋で、当然のことながら外部の音は一切聞こえない。

 

担当してくれた技師さんは人当たりのいい中年の女性だった。

いろいろ話して聞かせてくれて、あの感じの悪い耳鼻科の女医より印象がよかった。

 

さて、
検査を…という時になって、桃が寝ない。目ぱっちり。

でも、ベッドに寝かせると目は起きているものの体を動かそうとはしないので、頭と体が一致していない感じなんだろうか。

技師さんが「じゃあ、寝たら内線で呼んでくださいね」と退席されたので、その間に授乳してなんとか寝かしつけた。

どうしても寝なければ薬を足すこともできるんだけど、桃はまだ小さいのでやめておいたほうがいい。今寝なければ別日に再検査…と言われたので、寝てくれて一安心…

とはいえ、薬で眠っているというより、ただ眠いから寝てるだけという感じ。

本当にコレで検査ができるんだろうか…と思いながら、途中でリタイヤ・リベンジの可能性も覚悟しながら検査室を後にした。

 

検査が終わるまでの、長い、長い時間

検査は1時間程度と言われていたけれど、結局検査室に入ってから検査が終わるまで1時間半出てこなかった。

検査室の前で待つ時間は、まるで重い手術が成功するのを今か今かと待っているような気分にさえなった。

 

 途中、検査開始から1時間弱ほど経ったところで検査室の扉が開き、技師さんが出てきた。

「すみません…スクリーニングでは左耳はパスしたんですよね?」

「はい、そうですけど…左耳がダメそうなんですか?」

「ええ…右耳の方がまだ結果がマシなんですよね…」

「え?そうなんですか?」

「うーん、検査してるんですけど、ここぞってときに動いちゃってやり直しになっちゃうんです。もう少し粘ってみますね」

そう言うと、また検査室の重い扉が閉まった。

部屋の中では、桃が頭に電極のようなものやヘッドホンなどがつけられていて、静かに眠っているように見えた。

小さい身体から何本もの管が出ているのは、ただの検査だとわかっていてもやっぱり切ない。

痛々しくて、つらかった。

 

長い、長い時間だった。

きっと検査がうまく進んでいなかったんだと思う。

検査が終わり、少し技師さんと話ができた。

「うーん、やっぱり右耳の方が検査結果がいいんですよね~」

「なんででしょうね…でも、左耳も一応聞こえてはいるんですか?」

どさくさに紛れて質問してしまった。
検査結果は後日医師から説明するってことになってるんだけどね。

技師さんは「ええ」と返事をしてくれたので、心の中で小さくガッツポーズをした。

よかった。一応、聞こえてはいるんだ。

 

技師さんに質問責め…?

技師さんによると、自治体の3歳児検診で難聴を指摘されて検査に来る子が多いそうで、桃のような赤ちゃんが来ることは本当に珍しいらしい。

そして、検査は腕をちょっと動かすだけで脳波に影響が出るので、本当にちょっとでも動かれてしまうとやりなおしになってしまうんだとか。

やっぱり桃はトリクロリールシロップの力というよりも眠くて寝てたんだろうな、だから動いちゃって検査に時間がかかったんだろうな…と解釈した。ともあれ、予想をオーバーして時間はかかったものの「聞こえてはいる」との答えも得られたので一安心。

中度難聴くらいかな?なんて思いながら帰宅した。

 

桃は、眠ったままだった。